県立高校入試で57校109人の採点ミス

去る2月16日に行われた2016年度入学者の県立高校共通選抜試験で、57校の計109人に採点ミスがあったことを、県教育委員会が発表しました。合否に影響があったのは横浜市内の高校で、本来は合格基準に達していた女子生徒を1人不合格としていました。20160622-03_01

ミスは国語・数学・理科・社会・英語の5教科と特色検査で発生し、各高校の採点者が正答の点数集計の際に計算を間違え、最大で本来より11点高い点数をつけていました。90人が合格、17人が不合格となり、1人は受験後に志願を取り下げたため合否判定されていないとのことです。

また、川崎市立高校においても3校、3人に採点ミスがあり、うち1人は本来の合格基準に達していたが不合格とされていました。

県立高校の採点ミスは、2004年度に23校、2000年度に75校で発生しています。保管が義務付けされていた2015年度分の答案用紙を調べたところ、3校ですでに誤廃棄されていることが発覚。そして、71校188人分の採点ミスが発見されました。その中には本来合格だった受験生が2人いたそうです。

発覚のきっかけは答案用紙の開示請求

採点ミスの発覚のきっかけは開示得点で疑問を感じた受験生による『答案用紙の開示請求』でした。つまり、この請求がなければミスの発掘はなされなかったことになります。採点は複数の教員で確認が行われているそうですが、見落とされました。

実はこの採点ミス、身近な高校でも発生しています。秦野高校に合格した塾生の一人が、校長室に呼び出されて、社会の記述において「輸入」を「輪入」と書いていたミスを見落とした旨を告げられています。県教委の発表にあった「集計上のミス」と異なる点が気になりますが、保護者同伴の席で通知と謝罪が行われているのを塾は確認しています。

人為ミス撲滅の対策とジレンマ

「通う高校が違ったかもしれない」そう考えると、人生を左右する大事件として受け止める人がいてもおかしくありません。そして、本来は合格を果たしていたのに、不合格と評価されたことに不満を抱かないはずもありません。しかしながら、採点ミスは2年連続で起こっています。

とある高校では、入試の時季のスケジュールは、本来なら60時間の授業ができる課業日期間に23時間しかできないほど入試業務に追われているといいます。また、入試に備えてトイレを一斉に掃除するなど、現場にしかわからない苦労もあるようです。「業務が煩雑になるからミスが出る」と言えば、「当然だ。」「甘えるな」と意見が二分するでしょう。しかし、ミスの発生は認められませんし、受験生にはゆゆしき事態にほかなりません。つまり、世間一般では「甘えるな」と責任追及の方向に対策が及びやすくなります。しかし、ミスを処罰の対象にすると、隠蔽が図られる懸念が増します。今回のように、発覚のきっかけが受験生側からの指摘であること、県教委が再チェックの大号令をかけたことなど、現場に厳罰がなかったからこそ、非が公になったと見るべきではないでしょうか。

マークシート方式を本腰で検討か?

これまで、神奈川県外でも採点ミスに関する問題が発生し、その対策について協議されています。そこで必ず出てくる解決案がマークシート形式の導入です。現在、神奈川県教育委員会では入試の採点ミスの再発防止に向けた取り組みとして「調査改善委員会」を設置して、マークシート方式の導入も視野に入れた検討を行っています。もし、マークシート形式になれば、単純な得点の計算は確実に処理され、50校にも及んだ小計や合計の算出に関するミスは防げるでしょう。

ところが、問題もあります。1つはマークシート方式を導入しても、現在は各高校に肝心な読み取り機がありません。採点そのものを各高校に委ねていますので、この取り決めを継続させるなら、機械の設置を年度内に完了させなければいけません。また、「記述力」「思考力」といった入試で問うべきテーマは、その殆どが記述形式の設問であり、マークシート方式では処理できません。つまり、マークシート化を大幅に進めると、県教委が推進する選抜方針に逆流してしまうのです。そのため、一部マークシート化とし、採点の誤算出の可能性を低くするという程度の方針が示されるのではないかと予想されます。

20160622-03_02表2は2015年度に実施された入試における採点ミス188か所の内訳です。これによると、マークシート化で問題解決できる「小計・合計に係るミス」より、採点基準とのずれや誤字の見逃しが原因となる「正誤に係るミス」が多いのが見て取れます。先に書いた秦野高校合格者の採点ミスも後者に含まれますが、これは機械を導入しても解決できません。つまり、マークシート形式を導入して解決できる問題点は、採点ミス全体の半分に満たないのです。

実は、社会の指導の心得がある者なら「輸入」を「輪入」と書く生徒がいるかもしれないことは容易に想像できます。それだけに、採点の際には要チェックとなり、見逃す可能性は逆に低くなるはずなのです。その点で同じ指導に立つ者として共感できないミスと思わざるを得ません。表2は2015年度に実施された入試における採点ミス188か所の内訳です。これによると、マークシート化で問題解決できる「小計・合計に係るミス」より、採点基準とのずれや誤字の見逃しが原因となる「正誤に係るミス」が多いのが見て取れます。先に書いた秦野高校合格者の採点ミスも後者に含まれますが、これは機械を導入しても解決できません。つまり、マークシート形式を導入して解決できる問題点は、採点ミス全体の半分に満たないのです。

6月10日現在、まだ次回の入試日程は発表されていません。これは例年より一か月以上も遅れています。この点から、県教委が入試日程発表と同時に具体的な解決策を標榜するつもりであることが予測できます。しかし、説明会が始まる時期も迫っているため、各高校はもとより塾業界からも催促の声が矢のように浴びせられていると考えられます。

完全な解決策について簡単には答えが出ないと思われます。しかし、何より求めたいのは、公平で的確な採点がなされることです。調査改善委員会の今後の発表に注目したいと思います。

 

6月15日、県教委から次の入試の日程が発表されました。併せて、採点ミス防止に関するコメントは次のように発表されました。

平成27年度及び平成28年度入学者選抜における採点誤りを受け、平成29年度入学者選抜に向けた再発防止・改善策を現在、検討しています。したがって、選考基準及び特色検査の概要は現時点での案であり、6月下旬に確定する予定です。